その人は振り返ることなく歩き、あっという間に見えなくなってしまった。
「あ……なんだ」

ちょっと過剰に反応しすぎただけだったようで、ふっと笑いが漏れた。
その瞬間だった。
突如後から口を塞がれていた。

咄嗟に悲鳴をあげようとするが、もう声が口から漏れ出ることはなかった。
気がつけば私はひと通りが少ない道へと入ってきてしまっていたのだ。

強い力がずるずると引きずられた先に、黒い車が見えた。
しまった!
怜也は車を持っているんだった!

このまま押し込まれたら終わりだ。
必死で身を捩り、抵抗する。
相手が軽く舌打ちをして私のみぞおちに拳を打ち込んできた。

容赦ない攻撃に目の前が真っ白になり、意識が薄れる。

誰か、助けて。
それは声にならない声として消えていき、私は後部座席に乱暴に押し込められたのだった。