「千尋、私がついてるから大丈夫だよ」
泣きそうな顔の鳴海が私の右手を両手で握りしめていた。

まるで母親にされたことのあるような行為に心がくすぐったくなるけれど、嫌じゃなかった。
「先生もついてる。なにかあったら、すぐに警察に連絡するからきっと大丈夫よ」

そこまで言われてようやく自分が普通じゃない状況にいるのだと気がついた。
警察に頼らなければならないような状況なのだと。

呆然としている私の耳に救急車のサイレンが聞こえてきて、それは徐々に近づいてきたのだった。

☆☆☆

検査結果はあちこちの打撲だけで済んだ。
だけど病院の先生が体中にできた怪我の跡についてほっとくわけがなかった。

「お嬢さんの体には沢山の傷があります。古いものも、新しいものも」
両親が呼ばれて虐待ではないと判断された後で、医師はふたりにそう説明をした。