笑うと殴られた痛みがぶり返すから、絶対に笑ったりはしない。
「湿布でいいか?」
「うん」

「こっちは擦り傷だな。消毒しよう」
怜也の指先一本一本が優しく丁寧に私の傷を治していく。

だけど私の心はここにはなかった。
どこか遠い場所にあって、私と怜也のやりとりを見下ろしているような感じだ。

「さぁ、できた。じゃあ帰ろうか」
一通りの治療を終えると怜也は満足したように、いつもの優しい笑顔を浮かべるのだった。

☆☆☆

「ねぇ千尋、それどうしたの?」
ぼーっとして自分の席に座っていたとき突然鳴海に声をかけられて「え?」と、首を傾げた。

「今日もぼーっとしてるし、最近の千尋変だよ?」
「変……かなぁ?」

首を傾げると鳴海は盛大なため息を吐き出した。
「いつもなら『変じゃないし!』って言い返すところでしょう?」

そうだっけ?
そうだったかもしれないけれど、少し前の自分のことなんて忘れてしまった。