バイトが始まるのは5時からだ。
学校近くのファミレスまでは徒歩で5分もかからない。

早く行き過ぎてもやることがないので、教室でもう少し時間を潰してから行かなくてはいけない。

誰もいなくなった放課後の教室で1人スマホをつついていると、いろいろな喧騒が遠くになるような気がする。

グラウンドや廊下からは人の話し声や足音が聞こえてくるけれど、それはオブラートに包まれたように優しい。

「ふぅ、そろそろ行こうかな」
スマホで好きな曲を2曲ほど聞き終えたとき、私はようやく席を立った。

教室の出口へ向かおうとしたとき、出入り口に男子生徒が立っているのが見えてギクリとして足を止めた。
その生徒は同じクラスで、地味で目立たないタイプの生徒だ。

黒縁メガネの奥の目が、なにを考えているのかわからなくてつい後ずさりしてしまう。
教室内には誰もいないし、廊下から聞こえてきていた声はいつの間にか遠ざかっている。