私は返事をする気力もなくして、深い眠りに引き込まれて行ったのだった。

☆☆☆

「飯沼さん、起きて」
肩を揺さぶられて目を開けると車窓から見える駅名が懐かしいものになっていた。

大田店長の肩にもたれかかって眠りこけていた私は慌てて体を起こして「ご、ごめんなさい」と謝る。

大田店長は笑って「気にしなくていいよ。それより、もう下りないと」と、私の手を掴んで出口へと向かう。

人の少ないホームへと降り立つと懐かしさが胸を打った。
まだ家を出て数ヶ月しか経っていないのにやけに懐かしく感じるのは、あまりにも色々な経験をしたせいだろう。

「ここからは車で送るよ」
ホームから外へ出るとタクシーが列を作っている。
この時間だともうタクシーを使う乗客も少ないのだろう。

私たちがタクシーの列を通り過ぎて駐車場へ向かうのを確認したドライバーたちが三々五々別の場所へと走り去っていく。