そこまで考えて自分が着の身着のままで逃げてきたことを思い出した。
警察や親に連絡する手段を持っていない。
それならどこかのお店に入って誰かの力を借りるしかない。

そう思ってさっき男性たちが出てきた店へと近づいていく。
中からは楽しそうな声が聞こえてきて、熱気が立ち上がっているのがわかった。
入りにくい雰囲気だけれど、迷っている場合ではない。

居酒屋の引き戸に手をかけた時、中から戸が開かれて思わず飛び退いだ。
出てきた男性にぶつかりそうになって「ごめんなさい!」と、咄嗟に謝る。

「いや、こっちこそごめんなさい」
優しそうな声に顔を上げてみると、そこに立っていたのは大田店長だったのだ。

私は驚いて目を見開く。
大田店長もすぐに私だと気がついたようで、「飯沼さん?」と戸惑いの声を上げた。
どうして大田店長がここに?

と思ったけれど、確か以前もこの街で偶然出会ったことを思い出した。