距離としては片道2キロほどだから、買い物時間も入れると40分くらいは戻ってこないんじゃないだろうか。

素早く脳内で計算して、千尋の母親が見えなくなるのをジリジリと待つ。
後ろ姿が角を曲がって消えた時、ウチは勢いよく電柱の影から飛び出して飯沼家の玄関へと飛びついた。

鍵をあける動作は何度もシミュレーションしたのでスムーズに行った。
誰にも見られていなかったし、完璧だ。
念の為に玄関の鍵を掛けて靴を脱ぎ、その靴を学生カバンに詰め込んで2階へと向かう。

ずっと見ていたから家の間取りはなんどなく把握できている。
千尋の部屋は2階の奥だ。
躊躇すること無く階段を上がり、奥の部屋へと向かう。

焦げ茶色のドアには『千尋の部屋』という可愛らしいプラスチック製のプレートが掛けられていた。
小学校時代の千尋が作ったのもなのだろうか。

たどたどしい文字が微笑ましい。