どうしてそんなに厳しくなっているのだろうと探ってみると、千尋の母親が絵描きであることがわかった。
自分の作品と母親の作品を比べているのかもしれない。

すでにプロになって活躍している相手と、まだ学生の千尋なのだから、そんなに気にしなくてもいいのにと感じる。
ウチはこっそりスマホを取り出してそんな千尋の後ろ姿を写真に収めたのだった。

☆☆☆

千尋が美術をやめたのは2年生が終わるころだった。
3年生の引退まで続けるものだと思っていたウチはビックリした。

友達との会話に耳を潜めていると、生半可な気持ちじゃプロにはなれないとわかったからだ、と言っていた。
元々母親への興味から始めた絵だったから、やめた後の千尋も落ち込んでいる様子はなかった。

むしろ千尋の美しい絵を見ることができなることで落ち込んでいたのはウチの方だった。
真剣に描写対象と向き合う姿。