開きっぱなしの戸から中を覗き込んでみると20人ほどいる生徒たちがビーナスの彫刻を囲むようにして座り、キャンバスに向かっている。

みんな真剣な表情で、とても静かだ。
千尋は戸に近い場所に座っていて、ここからだと千尋の描いた絵がよく見えた。
まだ下書き段階のようで、木炭を握りしめた右手の指が真っ黒になっている。

「上手……」
思わず口をついて出てしまい、慌てて両手で口を塞いだ。

好きな相手が描いた絵だからとかじゃなくて、素直に千尋の絵は上手で美しいと感じる。

他の部員たちの絵もチラリと見たことがあるけれど、桁違いだとも。

だけど千尋はそんな自分の絵を納得できない様子で乱暴に消していく。
そしてまた書き直すと、さっきよりも更に素敵な下書きが出来上がる。

それでも千尋はまだ満足しない。
その繰り返し。
きっと千尋は自分に厳しいタイプで、妥協を許さないんだろう。