「そ、それより、今日は少し遅れて学校へ行くから、雪菜は先に行っててね」
「どうして?」
「き、今日の午前中はバイトの面接が入ってるの」

咄嗟についた嘘だった。
どうにかしてここから逃げ出すためにも、まずは雪菜から離れる必要がある。

「バイトの面接?」
雪菜の表情が怪訝そうなものになる。
「お金のことならウチにまかせてくれればいいのに」

「そんなわけにはいかないよ。ずっと雪菜のお世話になるなんてさ」
ヘラリと笑って言ってみても雪菜は笑ってくれなかった。

ジッと私の手に持つカップを見つめている。
私はゴクリと唾を飲み込んで雪菜の次の言葉を待った。
「飲んで?」

「あ、うん……」
どうしよう。

ここで飲まなかったら変に思われるだろうか。
私はそっとカップを口に近づける。

雪菜は穴が空くほどにその様子を見つめてくる。
指先が小刻みに震えて今にもカップを落としそうになってしまう。