よく使うのは知っていたけれど、黙っておいた。
ずっと見ていたなんて言えばきっと気持ち悪がられるから。

「自炊は得意じゃなくてさ」
それなら私が作りに行きます!

とは、もちろん言えなかった。
彼女でもないし、名前だってよく知らないのにそんな図々しいことは言えない。

できることなら、そうしてみたかったけれど。
「あ、あの、名前を聞いてもいいですか?」

1キロほど歩いたところでようやく名前を聞くことができた。
「あぁ、そっか。俺は君の名前を知ってるけど、君は俺の名前を知らないんだっけ」
気がついたように呟くので、私はコクコクと頷いた。

私の名前はネームに書かれているので、飯沼という名字だけは知っていて当然のことだった。
「俺は高木だよ。高木怜也」
「高木、怜也さん……?」

「うん。どうかした?」
「いいえ、あの、いい名前だなって思って」