「千尋?」
声がしてビクリと体が跳ねる。
恐る恐る振り向くとお風呂上がりの剛志がいた。

髪が濡れて、しずくが床へと滴っている。
「は、早く髪を乾かなさきゃ、風邪ひくよ?」
できるだけ自然に言ったつもりだったけれど、何度もつっかえて声も裏返った。

「ありがとう、千尋は優しいね」
近づいてきて私の体を後から抱きしめる。

窓には恐怖にひきつる私の顔と、歪んだ笑みを浮かべる剛志の顔が写っている。
「千尋」

名前を呼ばれ、そのままリビングの床に押し倒されてしまう。
剛志の体重がのしかかってきたとき、この上ない恐怖がこみ上げてきた。

「い、いや!!」
咄嗟に両手を突き出して剛志の体を押し返す。
「え?」

剛志の表情が変わる。
表情がなくなり、ジッと私を見下ろしてくる。

「ち、違うの。ど、どうせだから、ベッドへ行こうよ」
必死で誤魔化してみるけれど、剛志には通用しなかった。