怜也が、偽名を使って生活費を稼いでいる。
そう考えると腑に落ちてしまった。

『もしもし? 大丈夫ですか? もし被害に遭われたなら警察に――』
丁寧に対応してくれる男性社員の言葉はもう聞こえていなくて、私は通話を切っていた。

ここから逃げなきゃ。
早く、逃げなきゃ。

一旦寝室へと移動させておいたボストンバッグを引っ張り出して玄関へと走る。
浴室からは剛志の鼻歌が聞こえてきた。
剛志は機嫌がいいみたいだ。

この調子ならあと10分は出てこないだろう。
その間に少しでも早く遠くへ行かないといけない。

寮へ戻ればすぐに見つかってしまうから、外へ出てタクシーを拾って実家へ……。
そこまで考えて思考回路は途絶えた。
私の目の前に信じられない光景が広がっていたのた。

「なにこれ」
玄関ドアに手を伸ばすと、そこには頑丈な南京錠がかけられていたのだ。
しかも、ダイヤル式ではなく鍵が必要なものだ。