左手には剛志の名刺を持っていて、そこにはちゃんと会社名、役職が書かれている。
「そ、そんなことはないはずです。私、今仁村剛志の名刺を持っているんです」

切ろうとした電話に食いついてしまう。
『はぁ、そう言われましても……。あ、そういえば最近我社の社員を装った詐欺集団がいると聞いています』

「詐欺集団?」
思わず事態に頭は混乱している。
だけど最後まで話を聞かなければ。

スマホを持つ手にはじっとりと汗が滲んでいた。
『はい。なんでも名刺には我社の名前が入っていて電話もつながるけれど、販売しているのは浄水器だとか』

浄水器……。
私の視線は剛志のカバンへ向かう。
心臓がドクドクと嫌な音を立て始めている。

見てはいけないものを見てしまった気がする。
剛志はまともな会社務めではなかった。

詐欺集団ならば、ちゃんとして履歴書だって不要なまま働くことができたかもしれない。