怜也だとわかるようなエピソードが出てくれば、疑念は本物だったということになる。
「高校時代に付き合ったのが最後だから、もう5年くらい前のことだよ」

照れくさそうに言っているが、本当だろうか。

「相手は同級生でね、一緒に受験勉強とかしてたんだけど、僕の父親が病気になった関係で、僕だけ急遽就職することになったんだ」
「そうなんだ……」

よどみなく話す姿は嘘をついているようには思えない。
「そう。だからだんだん距離ができてきて、就職と進学が決まったときには自然消滅してたんだ」

「それだけ?」
聞くと、剛志は不思議そうに首をかしげた。

「それだけだけど、なんで?」
「あ、ううん。なんでもないの」

これ以上分深堀すればきっと怪しまれてしまう。
私はどうにか食べきったカレーのお皿を持って立ち上がり「おいしかった。ごちそうさま。後片付けは私がやるね」と、言ったのだった。