実際には剛志は私の首筋を撫でただけで「早く食べよう」と、言ったのだった。

☆☆☆

ダメだ。
逃げるタイミングがわからない。
それは私の弱さのせいか、全身で感じている恐怖のせいか。

食事を開始してからの剛志もいつもと変わりないように見えた。
会話の内容も別に変じゃない。
カレーも……今の所、食べて気分が悪くなるようなこともなかった。

「あの……さ」
「なに」

スプーンを止めて剛志を見る。
こんなことを聞いていいだろうかと悩んだけれど、やっぱりなにもわからないままでは、そっちのほうが怖かった。

ごく自然に質問してみればいいだけだ。
「剛志って、前はどんな人と付き合ってたの?」
その質問に剛志も食べる手を止めた。

ジッとこちらを見てくるので慌てて視線を落とす。
剛志に元カノのことを聞けばなにかボロを出すかも知れない。