私さえその気になれば、あれを持って玄関から逃げ出すことができる。

チェーンがかけられているけれど、冷静になればきっとすぐに外すことができるだろう。
「そういえばそれ、ちゃんと片付けておいてね」
タイミングよく剛志がボストンバッグを指差して言った。

全身に汗が吹き出すのを感じながら私は「もちろん」と、頷く。
そしてボストンバッグへと近づいている。
重たいそれを両手で持ち上げて、玄関ドアを見つめる。

行け。
このまま逃げてしまえ。
私の右手がチェーンへと伸びる。

心臓が破裂してしまいそうなほど早鐘を打ち、緊張で呼吸が乱れてくる。
「どうかした?」
すぐ後から声をかけられて悲鳴を上げてしまいそうになった。

ふりむくと剛志が私の首筋に右手を伸ばしてきた。
その手は今にも力を込めて首を締めてきそうな気がして体が硬直してしまった。