そもそも相手がバイクや車を使っていたとしたら、私が追いつくことはまず不可能だ。
だけどこうして財布を受け取ってきてしまったのだから、少しも探さずに店に戻ることもできない。

とにかく私は店から学校方面へと歩いてみることにした。
学校付近にはアパートが多く立っていて大学生が借りていることが多い。

あの男性が大学生かどうかわからないけれど、年齢的そう離れていないので可能性はある。
早足で学校方面へ向かっていると、街頭と月明かりの中を歩く1人の男性の後ろ姿に追いついた。

キレイめな私服姿。
間違いない。

あのお客さんだ!
私は小走りになって背中を追いかけた。
「あの、すみません!」

3メートルほどの距離に近づいてから声をかけると、男性が驚いた顔で振り向いた。
「え、どうかした?」

制服姿の私にすぐに気がついて足を止める。
「あのこれ、お店に忘れ物です」