怜也との事件が起こる前なら、まだ違っただろうけれど。
「それなら良かった。最近の千尋はなんだかうつつを抜かしているように見えたから」

ニヤついた笑みを浮かべて言う雪菜に、私は咄嗟に掴まれている腕を振りほどいた。
雪菜はこんな風に嫌味を言う子だっただろうか?
「もしかして嫉妬してるの?」

「は?」
「私に彼氏ができて自分にはできないから、嫉妬してるんじゃないの?」
つい、声が大きくなる。

雪菜はカッと目を見開いて顔を真っ赤にし、黙り込んでしまった。

きっと図星だったんだろう。
私はクスッとほほえみ返して雪菜の横を通り過ぎて自室へと向かったのだった。