それは休日のデート帰り、剛志がいつものように寮の前まで送ってくれたときのことだった。
太陽は傾き、すでに周囲はオレンジ色に色づいている。

寮の中からは美味しそうな夕飯の香りが漂ってきている。
「送ってくれてありがとう。今日も楽しかった」

「僕も。でも、できれば千尋を帰したくないな」
剛志からそんなことを言われたのは初めてのことで、返事に戸惑った。

付き合って一月が過ぎているから、剛志としてはそろそろ……という考えがあるのかもしれない。

そう思うと途端に恥ずかしくなって剛志の顔を真っ直ぐ見ることができなくなった。

「僕のアパートで一緒に暮らさないか?」
「え、でも……」
チラリと寮へ視線を送る。

寮を出るためには両親の承諾書が必要で、勝手に出ていくことはできない。
かといって無断外泊を続けていれば、すぐにバレてしまう。
「僕は真剣だよ。千尋もちゃんと考えてみてほしい」