「アメリカ!?」

 恋人のリューガから突然切り出された留学話に、あたしは大きな声を上げた。
 ここはあたしの住んでるアパートの部屋で、あたしはひとり暮らしだから、大きな声を出しても気にすることはない。

「なにそれ、なんで? やだやだ、会えなくなるじゃん!」
「オレだって、ミサと会えなくなるのは嫌だよ。だけど、急に枠が空いて、即決しないと別の奴に取られそうだったんだ」
「だったら行かなきゃいいじゃん! あたしより留学の方が大事なの!?」

 泣きながらぽかぽかと胸を叩いたあたしを、リューガが宥めるように抱き締める。

「ごめんって。でも向こうで良い成績残したら、こっち戻ってきた時、就職で有利になるから。そしたら、ミサと結婚した後、苦労させずに済むだろ。ミサのためでもあるんだよ」
「あたしの、ため?」
「そう。ミサが大事だから、オレはミサに見合う男になりたいの」
「……でも、離れたくない」
「オレもだよ」
「アメリカ女に取られたくない」
「大丈夫だって。オレが浮気なんてするはずないだろ」
「じゃあ、約束してよ」

 言って、あたしはずいとリューガの目の前に小指を立てて見せる。

「指切り。絶対、他の女と寝ないって。留学期間が終わったら、まっすぐあたしのところに帰ってくるって、約束して」

 真剣な顔で言うと、リューガはきょとん、とした後、ふっと優しく笑った。

「なんだ、そんなこと。いいよ」

 リューガはあたしを離すと、キッチンに向かった。
 たまに料理をしてくれるから、どこに何があるかは知っている。迷わず引き出しを開けて、包丁を取り出した。
 そして何でもないように小指に当てて、

 ――とん。

「ほら、これでいい?」

 自分の小指を摘まんで微笑むリューガに、あたしは蕩けるような笑みを浮かべた。

「うんっ!」

 返事をして駆け寄ると、ぎゅっとリューガに抱きつく。

「だからリューガ好きぃ」
「こら、血つくよ」
「止血したげる」

 こんなにあたしを愛してくれる男は、あたしを理解してくれる男は、リューガしかいない。
 だから絶対、他の女になんかやらない。