その後彼について行っている間、私は今日の思い出話をした。
 私がボーリングでだめだめだったのに、途中から覚醒して最終的にはスペアを出したこと。
 卓球で長くラリーが続いたこと。昼、スポーツの待ち時間が長すぎて、その時間に漫画を読んでいた事などなどだ。
 その全ての話に対して宮水君はリアクションしてくれた。
 そのおかげでなんだか楽しかった。

 「ここが俺の家だ」
 家に着くと、そう彼は静かに言った。
 そこは立派な一軒家だった。
 そこそこお金を持っているのだろう。
 「たぶん親は寝ているから、あまり音を立てないでくれ」
 「うん、分かってる」
 音を立てたらきっと迷惑をかける。
 宮水君も、家に女である私を連れ込んだことがばれれば大変な事になるだろう。
 元々迷惑をかけている身なんだから。

 そして宮水君の部屋に入る。畳の部屋だった。
 その中には布団が敷いてある。
 灯りは提灯型のランプだけだ。
 「あまり灯りを強くできないからこれで」
 「うん。これで十分だよ」
 そして周りを見渡すと、様々な漫画が置いてある。
 「漫画が好きなの?」
 私が訊くと、彼は黙って「うん」と頷いた。
 「俺は結構漫画が好きなんだ。一つ一つに濃厚なストーリーがあって、もう一つの人生が味わえるから」
 「うん。私も同感。漫画いいよね。ちょっと読ませて」
 「ああ、いいよ」
 そして私は漫画を取る。
 正直に言うと、今の私は緊張をしている。理由なんてシンプルだ。だって、ここは男子の家。男子の部屋。
 異性の部屋に入るのは初めてだから。
 私から、部屋に入れてとは言ったけど、その意味をあの時の私は理解できていなかった。
 うぅ、漫画を読むことで何とか気持ちを収めているけど、どうしたら。
 「お酒飲みたい」
 私はふと呟いた。
 お酒があったら酔える。そしたらこの卑しい気持ちは収まってくれるだろう。
 「酒はだめだよ。男女でいる時に酒は良くない」
 そうだよね。
 たぶん私か彼が手を出して終わる気がする。

 スマホは今充電中だ。
 そして私は今眠たくない。
 「ねえ、ゲームでもしない?」
 漫画を一冊読み終わったところでそう言った。
「寝ないんだな」
「うん。だって明日も授業ないし」
「はあ、分かった」
 ゲーム機の棚を見ると様々なゲームがある。
 私はその中でカートレースのゲームを選んだ。
 ゲームの中では自由になれる。ゲームに夢中になると。
 「そう言えば宮水君ってゲームは上手いの?」
 「俺はそこまでではないかな。とは言っても負けるつもりはないけど」
 「いうね」
 私達はそうやってカートレースをする。
 その時横を見ると、宮水君は夢中でゲームをしている。
 その真剣な眼差し、見てるとなんとなく楽しくなる。

 それと同時に男子なんだなと思える。
 私は男性経験が今までない。付き合った経験すらない。
 友達が彼氏自慢するたびに彼氏が欲しくなってくる。
 だからなのかもしれない。嘘までついてこの家に上がったのは。
 宮水君の事は元から気になっていたし、新たな一面を見て、少しづつ惹かれて行っているのを感じる。
 その仕草全てが、男らしくもあり、可愛らしくもある。

 「っしゃーかった」
 そう喜ぶ宮水君。
 「結構本気でやったのにな……」
 私はため息をつく。
 よそ見を度々していたが、ゲームに対する集中も途切れさせていなかったはずだ。
 「ねえ、宮水君」
 「どうした?」
 「何でもない」
 まさかかっこいいだなんて言えないよね。

 「ごめんトイレに行ってくる」
 「おう、トイレの場所分かるか?」
 「うん。玄関の近くでしょ」
 私はそう言って、トイレに向かう。でも、ごめん。理由は違うの。
 私のカバンにはさっき買ったお酒が入っている。
 彼の前で飲むのは止められた、けど。
 私はトイレの中で缶ビールの蓋を開けグイっと飲む。
 私はそこまでお酒に強い訳じゃない。だから軽い量で酔う事が出来る。
 公園で飲もうか迷っていたものだけど、ちゃんと買っていてよかった。