幻影の八犬士たちとの戦いは激烈を極めた。
剣戟が響き、火花が散り、体力と精神を削られるなかで、千龍はふと祖父・犬塚信乃の声を思い出した。

「村雨は刀にあらず、お前の心が刃となるのだ」

その言葉を胸に刻み、千龍は刃を大きく振り下ろした。
光の波紋が広がり、幻影の一体を粉砕する。

同じく蒼真は、景臣の声が心に響くのを感じた。

「剣は技だけではなく、心の力も試される」

気持ちを集中させることで、蒼真の〈義の珠〉は鮮やかに輝きを増し、幻影を退けた。

蓮は瞳を閉じ、かつて伝説の八犬士が口にした礼の教えを思い出す。

「己が正義を貫け。信じる道を見失うな」

その想いが彼の体を貫き、霊力が波紋のように広がった。

美咲もまた、先祖の陰陽師の教えと自らの信念を胸に、勾玉を強く握りしめた。
彼女の術は幻影の攻撃を封じ、仲間の力を援護する。

六人は一体となり、それぞれの珠が共鳴を強めた瞬間、幻影は音もなく消え去った。
息を切らしながらも、一同は静かに立ち尽くす。

その時、景臣がゆっくりと歩み寄ってきた。

「なるほど……考、義、礼、信、悌、仁……いや、”覚悟”がある。
疑って悪かった。これで俺も決めた」

景臣の懐が光を帯び、仁の珠が現れた。
光の中で珠が震え、他の珠たちと共鳴し始める。

「俺も同行しよう。だが、俺の仁は剣でも術でもない。思考と観察、そして先を読む力だ。
それでもいいなら、共に戦おう」

蒼真が頷いた。

「お前の力が必要だ。珠がそれを証明している」

景臣は穏やかに微笑んだ。

「ならば次に向かうべきは、”忠”の珠だな。怨霊の動きが東方に集中している。奴らの狙いは、珠の共鳴を封じること。急がねばならない」

蓮が目を細めた。

「本当に怨霊だけなのか? あの戦いの中に、人の気配もあった……」

美咲が静かに頷く。

「ええ。あれはただの怨霊ではない。誰かが明確な意志を持って、珠を壊そうとしている」

景臣が言った。

「ならば次は、そいつの思考を読む番だ」

その瞳の奥に、冷静な熱が灯っていた。

珠を巡る旅は、いよいよ核心へと近づいていた――。