きっと自分の存在など認識されないだろうと思っていたのに、蒼刃の深い青い瞳が真っ直ぐに自分を見つめている。

「そこの娘。君の名は?」
「……久我千花と申します」

 口から出てきた声はか細いものだった。皆の視線が、痛いほどに集中している。
 蒼刃は他の者に向けるのとは違う表情を見せた気がした。ほんの一瞬だったから、気のせいかもしれない。

「久我千花、か」

 彼の目は千花から離れようとはせず、千花は困惑した。普通なら、美琴の方に注目するだろうに。

(この方は……本当に同じ人間なのかしら……)

 彼の美しさ、神聖な雰囲気、そして圧倒的な存在感。まるで本当に神様が人の姿を取って現れたかのような。

「始める前に、私の指導方針を述べておこう。神舞とは、単なる技術の披露ではない。踊り手の心が神に届いて初めて、真の舞となる」

 蒼刃の言葉には、父の言葉とは違う重みがあった。千花には、まるで長い年月をかけて得た真理を語るかのような響きに聞こえる。

「美しい型も、完璧な技術も、それだけでは意味がない。大切なのは、なぜ舞うのかだ。その心の在り方こそが、神の御心に触れる鍵となる」

 美琴は熱心に頷いているが、その眉間にはわずかな困惑の皺が寄っている。
今まで技術と美しさでのみ評価されてきた美琴には、蒼刃の言葉は理解しにくいものなのかもしれない。

「心の在り方……」