神託の舞人

あの日以来、千花の人生は大きく変わった。
父も千花を見直してくれたようではあるが、別れの挨拶をしたきりだ。
駅まで見送りに来たいと言っていたけれど、それもまた断らせてもらった。
今さら、あの人と仲良くできるとは思えなかったから。それに、三日程度ではやはり、正面から向き合うのは怖い。
旅をする間にゆっくりと気持ちの整理をつけて、いつか、きちんと話をしたいと思っている。

「君にはこれくらいが当然だ」

 やがて汽笛が響き、汽車がゆっくりと動き始めた。

(……あ)

 窓の向こうに、父の姿が見える。彼は、じっとこちらを見ていた。
今、彼は何を考えているのだろう。目があった気がしたけれど、先に視線をそらしたのは父だった。
 見送りには、来なくていいと言ったのに――久我家を盛り立てるための才能が、自分の手から零れていったのが今さら気になるのだろうか。
美琴や蓮司の行いは、あの場で蒼刃によって明らかにされた。以来、久我家に対する見方が厳しくなったのは否定できない。
美琴は謹慎させられているというし、蓮司もまた実家の商家で厳しく躾直しをされているそうだ。彼の存在が、長い間千花には心の支えのようなものでもあったけれど――。
長い間騙されていたと知った今も、彼を恨む気持ちにはなれなかった。
――それにしても。