千花は美琴への怒りよりも、悲しみを感じていた。妹が自分をそれほどまでに憎んでいたとは。
蒼刃は千花に向き直ると、その表情を和らげた。
「千花、君は長い間苦しんできた。だが、君は負けなかった。常に、真摯に自分自身に向き合おうとしていた」
蒼刃の優しい言葉に、千花は深く頭を下げた。
「蒼刃様……お役目、私で役に立てるでしょうか」
「神託が下ったのだ。君にしかできないことだ」
蒼刃と千花の約束に、会場から拍手が沸き起こった。
「ですが! 高槻公爵からは、美琴とあなたの縁を結ぶようにと」
その時、父の無粋な声が割って入る。父は、蒼刃の目から美琴を守るように立ちはだかっていた。父のその姿に、千花の胸がちくりと痛む。
こんな時でも、父は千花を認めようとはせず、美琴を守ろうとしていたから。
「高槻公爵からは、久我家と佐倉家と話があったはずだ。そして私は、そこの娘を妻に迎えようとは思わない――そのような性根の娘など必要ない」
蒼刃の声は冷たかった。あまりにも冷たかったものだから、父も彼の迫力に負けてしまったようだ。
「……千花」
その時になって、ようやく千花の名を呼ぶ。けれど、千花は首を横に振った。
今の父に言えることはない。そして、父に正面から向き直るには千花の気持ちの整理はまだついていなかった。
◇ ◇ ◇
蒼刃は千花に向き直ると、その表情を和らげた。
「千花、君は長い間苦しんできた。だが、君は負けなかった。常に、真摯に自分自身に向き合おうとしていた」
蒼刃の優しい言葉に、千花は深く頭を下げた。
「蒼刃様……お役目、私で役に立てるでしょうか」
「神託が下ったのだ。君にしかできないことだ」
蒼刃と千花の約束に、会場から拍手が沸き起こった。
「ですが! 高槻公爵からは、美琴とあなたの縁を結ぶようにと」
その時、父の無粋な声が割って入る。父は、蒼刃の目から美琴を守るように立ちはだかっていた。父のその姿に、千花の胸がちくりと痛む。
こんな時でも、父は千花を認めようとはせず、美琴を守ろうとしていたから。
「高槻公爵からは、久我家と佐倉家と話があったはずだ。そして私は、そこの娘を妻に迎えようとは思わない――そのような性根の娘など必要ない」
蒼刃の声は冷たかった。あまりにも冷たかったものだから、父も彼の迫力に負けてしまったようだ。
「……千花」
その時になって、ようやく千花の名を呼ぶ。けれど、千花は首を横に振った。
今の父に言えることはない。そして、父に正面から向き直るには千花の気持ちの整理はまだついていなかった。
◇ ◇ ◇
