神託の舞人

長い間、守護舞人は不在だった。このところ、結界が弱まっているという噂は、神職にある者達の間に広まっている。
けれど、千花が選ばれたならば、再び結界は強化されるだろう。

「千花様が……結界の守護舞人に……」
「これで日本帝国の守護は万全ですね」
「真の舞人にこそふさわしいお役目」
「そんな……嘘よ!」

 美琴の声が会場に響いた。

「お姉様なんかが結界の守護舞人だなんて! 私の方が才能があるのに! 私こそが久我家の宝です! あの人ただの出来損ないよ!」

 美琴は必死に叫び続けたが、もはや誰も彼女の言葉に耳を貸そうとはしない。
 その時、蒼刃の冷たい視線が美琴に向けられた。

「美琴。お前と蓮司がしたことを知っているぞ」

 蒼刃の言葉に、美琴の顔が青ざめた。会場の人々も、何が明かされるのかと固唾を呑んで見守っている。

「千花の髪を切り、舞衣を破り、道具を汚したのはお前だ」

 蒼刃の暴露に、会場がどよめいた。

「そして蓮司と共謀し、千花に暴力を振るい、天詠儀への参加を妨害しようとした」

 観衆の間から怒りの声が上がり始めた。

「なんということ!」
「守護舞人様に、そんなことをしていたのか……」
「許せない行為だわ!」

 美琴は必死に否定しようとしたが、神託を下した蒼刃の証言を覆すことなどできない。

「違う……私は知らないわ……」
「嘘をつくな」