神託の舞人

(……やはり、美しいわ)

 美琴の舞は、やはり美しかった。

「なんと美しい……」
「これぞ神に捧げる舞ですね」
「久我家の宝と言われるだけのことはある」

 感嘆の声が会場のあちこちから聞こえてくる。誰もが美琴の技術の高さと美しさに心を奪われていた。
 舞い終えた美琴は満足そうに微笑むと、会場を見回した。その視線が蒼刃に向けられると、彼女の頬がほんのりと紅潮する。
 昨夜のことは、なかったことにしたようだった。
 会場に拍手が響いた。観衆は立ち上がって美琴を賞賛し、その美しさと技術を称えている。

「素晴らしい!」
「完璧な舞でした!」
「さすが久我家のお嬢様!」

 口々にそう美琴を褒めたたえる。

「ですが神託は……まだ降りておりません」

 若い神官の言葉に、会場がざわめいた。これほど美しく完璧な舞なのに、神の御心を得ることができないとは。
 観衆も困惑していた。これほど美しい舞を見ても神託が降りないとすれば、一体どのような舞が神の御心にかなうのだろうか。
 美琴が舞台を降りると、会場に再び静寂が戻った。
 しかし、その静寂は先ほどまでの期待に満ちたものとは違っていた。困惑と不安に満ちた、重い沈黙だった。
 美琴の完璧な舞でさえ神託を得ることができなかった今、会場は困惑と期待が入り混じった重い空気に包まれていた。
 千花が舞台の中央に歩み出ると、会場がざわめいた。