神託の舞人

「蒼刃様……なぜ私などに……」
「君は『などに』という存在ではない」

 蒼刃は千花の目を真っ直ぐに見つめた。

「君は誰よりも価値のある存在だ。それを忘れるな」

 その言葉に、千花の心は温かくなった。これまで誰からも価値を認めてもらったことがなかったのに、蒼刃だけは違った。

「君は堂々と舞え。それでいい」
「必ず、蒼刃様のお気持ちにお応えいたします」

 蒼刃が立ち去った後、白装束の者達が手際よく身なりを調えてくれる。化粧までしてもらい、鏡の中から見た姿は、まるで別人のように美しく見えた。

◇ ◇ ◇



 天詠儀は、久我家の庭に作られた舞台で行われる。集まっているのは、神職にある者や、華族等だ。
 舞台の裏手に控えた者達が、演奏を始める。一人一人舞を奉納していく中、ついに美琴の番が来た。
 天詠儀の会場に、期待に満ちた静寂が漂った。
 これまでの奉納舞はいずれも美しかったが、神の明確な反応は見られていない。観衆も神官達も、神託が下ることを期待しているようだ。
 先ほどの事件などなかったかのように美琴は舞い始めた。
 豪華な金糸の刺繍が施された深紅の着物。髪に飾られた真珠と翡翠の髪飾り――軽やかに舞う様は、まさしく天女のようだった。

「素晴らしい……」

 そうつぶやいたのは、誰だろう。舞台から少し離れたところから、千花も彼女の舞を見守っていた。