「それは……」

　千花は答えに窮した。美琴を告発するようなことはしたくない。
　蒼刃は千花の躊躇を見て、全てを理解した。

「言わなくてもよい。察しはついている――私についてきなさい」

　蒼刃は手を差し出す。ためらいながらも、千花は彼の手を借りて立ち上がった。
彼は千花を稽古場へと連れて行った。彼が手を叩くと、白い装束に身を包んだ者達が姿を見せる。今まで、千花は見たことがない者達だった。

「千花殿を、天詠儀にふさわしい装いにしろ」

　彼が命じると、白い衣の者達は音もなく動き始めた。
一人が包みを抱えて進み出る。開かれた堤には、見事な鬘が入っていた。
　艶やかな黒髪が丁寧に結い上げられ、金糸で装飾された髪飾りまで付いている。それは都の最高級の職人が作ったものに違いなかった。

「蒼刃様……これは……」
「君は神に舞を捧げる舞人だ。それにふさわしい装いをするのは当然のことだ」

　次に差し出された包みからは、千花が見たこともないほど美しい舞衣が現れた。
　純白の絹地に、銀糸で鳳凰の模様が織り込まれている。それは神聖で、まさに神に捧げる舞にふさわしい衣装だった。

「これは……古の舞人が着ていた衣装の復元ですね……」

　以前、書物で見たことがある。母から譲り受けた舞の教本に記されていたものと酷似していた。だが、教本よりもはるかに美しい。