それにもかまわず、蓮司は執拗に千花の髪を切り続けた。

「美琴様、これでよろしいでしょうか」
「ええ、完璧よ。ありがとう、蓮司」

 美琴は満足そうに微笑んだ。
 蓮司が千花を解放すると、千花はよろめいてその場に膝をついた。地面には切られた髪の毛が散らばっている。

「もうすぐ蒼刃様と結婚するのに、お姉様のせいで台無しになってしまうわ」
「……美琴」
「これで、天詠儀に出ようなんて思わないでしょ」

 見上げる千花を見下ろす美琴の目は冷たかった。今まで、曲がりなりにも姉として扱ってくれていたのが、完璧に変わってしまったのを理解する。

「……その顔。その顔が見たかったの。蓮司に裏切られて悲しいでしょう」

 くすくすと笑う声。その美琴に、蓮司がうっとりとした顔を向けている。
勝手口で、千花と話していた時とはまったく違う表情。
千花に向けていたただ感じのいい笑みではなく、色濃い恋情が彼の顔にはあった。

「今までね、蓮司がお姉様に親切だったのは、私がお願いしていたからなの。お姉様ってば、蓮司のことを好きになっちゃって笑えるわ」
「ち、違うわ……」
「いつか、蓮司に裏切られたらどんな顔をするかなって考えたら、それだけでわくわくしたわ。もうちょっと後にするつもりだったんだけど……でもまあ、その髪では天詠儀に参加なんてできないでしょうし……」