蒼刃は、千花にも指導してくれる。それで、充分ではないか。


◇ ◇ ◇



 不穏な空気をはらみながらも、天詠儀の当日となった。
なんとか参加を許された千花が、最後の仕上げとばかりに庭で一人、密かに舞の練習をしていた時のことだった。

「お姉様、こんなところにいたのね。ちょうどよかったわ」
「美琴……蓮司さんも。どうしたの?」

 千花は二人の様子に不安を覚えた。特に蓮司の手には何か光るものが握られている。

「お姉様、天詠儀の準備はいかが?」
「できる限りのことをしたいと思っているわ」
「……そう。でもね、お姉様。天詠儀に出るのはやめてもらいたいの」
「え?」
「蒼刃様は私のものよ。お姉様のような醜い女が近づいてはいけないの」

 その時、蓮司が動いた。
 手に握っていたのは鋏だった。千花が反応する間もなく、蓮司は千花の腕を掴んで動きを封じる。

「やめて! 何をするの!」
「美琴様のためだ」

 蓮司の目は完全に据わっていた。

「蓮司、お願い。この人の髪を切って」
「任せてください。美琴様のお役に立てるならなんでもします」
「や、やめて……!」

 千花は身を翻して逃げ出そうとしたが、蓮司は躊躇なく千花の髪を掴んだ。艶やかな黒髪を鋏で挟むと、容赦なく切り始める。
 ざく、ざく、ざく。