美琴は満足そうに微笑んだ。その笑顔は美しかったが、勝ち誇った表情だった。

「それにしても、蒼刃殿は素晴らしい方だ」

 慌ただしく夕食の膳が調えられ、家族そろっての夕食となる。その中でも、千花はいたたまれなさを覚えずにはいられなかった。
 父は酒を飲みながら続けた。

「あの美貌と実力があれば、将来は朝廷でも重要な地位に就かれるに違いない。美琴は幸運だな」

 父の言葉から、千花は父の真意を理解した。父は蒼刃個人に興味があるのではなく、蒼刃の地位と権力に目をつけているのだ。
 千花はそう思ったが、美琴は父の思惑など気にしていないようだった。ただ蒼刃と結婚できることが嬉しくてしかたがないのだろう。

「お父様、蒼刃様はいつ正式にお申し込みくださるのでしょうか?」

 美琴の質問に、父は考え深げな表情を見せた。

「それについては、蒼刃殿のご都合次第だが、天詠儀が終わったらすぐにでも進めてくださるだろう」
「そうね。美琴の気持ちを考えると、一日も早い方がよろしいでしょう」

 麗子も同調する。
 千花は自分の感情を抑えようとした。蒼刃には蒼刃の考えがあるのだろう。自分が口を挟むべきことではない。
 でも、胸が痛むのまではどうしようもなかった。

(私は……蒼刃様を)

 その時、千花は自分の気持ちに気づきかけた。しかし、その感情を認めることが怖くて、慌てて心の奥に押し込んだ。