神託の舞人

「いや、俺なんかが言えることじゃないんですけど! 千花様が無理をしているような気がして」
「……そんなこと、ないわ」

 ぽつりと零れたのは、蓮司へのわずかな抵抗心だったのかもしれない。
ようやく、掴んだ小さな光。その光を、何もしないまま逃すなんてできない。

「いえ、無理してるんじゃなきゃいいんです。本当に、俺なんかが言えることじゃないんで……」
「ありがとう、蓮司さん。あなたが心配してくれるのは、ありがたいと思っているわ。無理はしないようにするわね」
「余計なことを、言いました」

 頭を下げた蓮司は、勢いよく身を翻して行ってしまう。彼に悪いことをしたような気がして、千花の胸が痛んだ。


◇ ◇ ◇



 蒼刃の指導を受けるようになってから、一週間が過ぎた。
 その日の夕方、千花が台所で夕食の準備をしていると、父が上機嫌で帰宅した。このところ父はあちこち出かけては、何やら会談を重ねているようだ。

「千花、家族を居間に集めろ」

 父の命令に、千花は慌てて手を拭いた。父がこれほど上機嫌なのは珍しい。

「かしこまりました、お父様」

 程なくして、久我家の家族が居間に集まった。父は座卓の上座に座り、継母の麗子と美琴がその隣に座っている。千花だけが末席に控えていた。