舞いながら、強く思った。


◇ ◇ ◇



 その時は、それですんだと思っていた。それが甘かったと思うまで、さほど長い時間はかからなかった。
だが、それ以来、小さな嫌がらせが続くようになった。
履物が隠されていたり、練習時間が変更になったのを教えてもらえなかったり。うっかりで済むようなものばかりだったけれど、嫌がらせには違いない。
それでも、意地を張るようにして千花は稽古場に通い続けた。蒼刃の指導を受ける度に、自分の舞が確実に上達しているのがわかったから。
 意地を張っても気持ちが疲弊するのはどうしようもなく、勝手口でため息をついたら、米と酒を届けてくれた蓮司が心配そうな目を向けてきた。

「お疲れですね、千花様」
「蓮司さん……たしかに稽古は大変だけれど、私……少し、頑張れる気がするの」

 夜、一人庭に出ての自己練習も変わらずに続けている。
蒼刃から借りた扇は、やはり不思議な力を持っているような気がする。自己練習の時も、以前とは違う気がするのだ。

「千花様は、そんなに頑張らなくてもいいでしょうに」
「……え?」

 蓮司が、そんなことを言い出すのは初めてだった。彼の言葉が信じられなくて、千花は目を瞬かせる。
千花の表情に気づいたのか、蓮司は慌てたように手を振った。