青い絹地に銀糸で鳳凰の模様が織り込まれている。香が焚きしめられているのか、受け取るとふわりといい香りがした。

「ありがとうございます」

 千花が受け取ると、不思議な温かさが手に伝わってきた。まるで生きているかのような、神聖な力を感じる。

「千花殿、壊れた扇を見せてもらえるか」
「……はい」

 手にしたままだった母の扇を蒼刃に手渡す。受け取った彼は、それを念入りに調べる。

「……故意に壊されたようだな。これでは、千花殿の責任とは言えないだろう」

 蒼刃の鋭い指摘に、父と美琴だけではなく、稽古場にいた全員が緊張した。

「千花殿、この扇は私が預かってかまわないか。修理できるかもしれない」
「……はい。よろしくお願いします」
「では、稽古を始める。皆、それぞれの位置について」

 ぱん、と蒼刃が手を打ち合わせる。父も美琴も不満を覚えているようだったけれど、指導者がそう言ったのならばそれ以上は何もできない。
 全員そろっての稽古が始まった。曲に合わせて舞う舞人達の間を縫うようにして蒼刃は歩き、一人一人に適切な指導をしていく。
 千花は蒼刃の扇を使って舞った。
 不思議なことに、彼の扇を使うと普段より上手く舞えるような気がした。彼の扇には、何か特別な力が宿っているのかもしれないなんて思ってしまうほどだ。

(……お借りした扇に恥じないように舞わなければ)