「お前は、今日の練習には出なくていい。道具を壊すような者に、神に捧げる舞を舞う資格などないのだから」
「――お父様! 待って、話を聞いて!」
「お前は、自室で謹慎してろ! 稽古場に姿を見せたらどうなるかわかっているな」
なおも父を呼ぼうとしたが、父は美琴の背を押した。そして、千花を追いやるように手を振る。
だが、その時話に割って入ったのは、ちょうど稽古場に来た蒼刃だった。
「……久我殿――千花殿がいてくれないと、困る。全員に平等に指導をするのが、私が指導を引き受けた時の約束だったはずだ」
「ですが、この娘は美琴に濡れ衣を着せて」
「濡れ衣? 千花殿は、美琴殿に何か知っているのかとたずねていただけだ。たしかに、言葉は強かったかもしれないが、大切な道具が破損していたのなら動揺してもしかたないだろう」
蒼刃の言葉に、父も美琴も黙ってしまった。二人だけではなく、千花も。
(……どうして、この方は私を助けてくれるの?)
今まで千花を助けてくれたのは、蓮司と蒼刃だけ。蓮司とはしばしば言葉を交わす機会があったからわかるが、蒼刃とは稽古以外言葉をかわしたことはない。
「千花殿、今日は私の道具を使いなさい」
「でも、それでは蒼刃様が……」
「問題ない。予備を持っている――さあ受け取れ」
蒼刃は自分の扇を千花に差し出した。それは千花が見たこともないほど美しい扇だった。
「――お父様! 待って、話を聞いて!」
「お前は、自室で謹慎してろ! 稽古場に姿を見せたらどうなるかわかっているな」
なおも父を呼ぼうとしたが、父は美琴の背を押した。そして、千花を追いやるように手を振る。
だが、その時話に割って入ったのは、ちょうど稽古場に来た蒼刃だった。
「……久我殿――千花殿がいてくれないと、困る。全員に平等に指導をするのが、私が指導を引き受けた時の約束だったはずだ」
「ですが、この娘は美琴に濡れ衣を着せて」
「濡れ衣? 千花殿は、美琴殿に何か知っているのかとたずねていただけだ。たしかに、言葉は強かったかもしれないが、大切な道具が破損していたのなら動揺してもしかたないだろう」
蒼刃の言葉に、父も美琴も黙ってしまった。二人だけではなく、千花も。
(……どうして、この方は私を助けてくれるの?)
今まで千花を助けてくれたのは、蓮司と蒼刃だけ。蓮司とはしばしば言葉を交わす機会があったからわかるが、蒼刃とは稽古以外言葉をかわしたことはない。
「千花殿、今日は私の道具を使いなさい」
「でも、それでは蒼刃様が……」
「問題ない。予備を持っている――さあ受け取れ」
蒼刃は自分の扇を千花に差し出した。それは千花が見たこともないほど美しい扇だった。
