「そうだな……美琴、お前の舞を見せてやってくれ」

 美琴は振り返って千花に微笑みかけた。

「お姉様、よく見ていてくださいね。きっと参考になりますから」

 美琴が舞い始めると、稽古場の空気が一変した。
 流れるような袖の動き、優雅な足運び、完璧な扇の扱い。美琴の舞は確かに天女のように美しく、千花の拙い舞とは雲泥の差だった。

「素晴らしいわ……」

 千花が叩かれた時は視線をそらしていた弟子達からも感嘆の声が漏れる。
 美琴の舞が終わると、稽古場に拍手が響いた。

「さすが美琴だ。これが久我家の娘としてふさわしい舞というものだ」

 美琴は千花に向き直ると、同情するような表情を作った。

「私でよろしければ、後でお教えいたします。お姉様にも少しでも上達していただきたいですから……天詠儀まであとわずかですもの」

 千花は複雑な気持ちになった。美琴が自分を庇ってくれているのはわかる。だが、同時にその庇い方が自分をより一層惨めに見せていることも理解していた。

「ありがとう、美琴」

 千花は小さく答えた。頬はまだ痛んでいたが、それよりも心の痛みの方が深刻だった。

「千花、今日の稽古はここまでだ。そろそろ夕食の支度にかかれ」
「はい、お父様」

 千花は深々と頭を下げ、稽古場を後にした。