美琴は千花を部屋に押し込むと、扉を閉めた。そして振り返った時の表情は、千花が見たことがないほど恐ろしいものだった。

「どうして、どうして、お姉様なの?」

 美琴の声が震え始めた。怒りなのか、悲しみなのか、それとも両方なのか。

「私の方が美しいのに! 私の方が才能があるのに! それなのに、なぜ蒼刃様はお姉様ばかり……」

 美琴の目に、屈辱と嫉妬の涙が浮かんでいる。
 千花は美琴の気持ちを理解しようとした。
確かに美琴は美しく、舞の技術も優れている。それなのに蒼刃が千花に丁寧に基礎から指導している理由は、美琴には理解できないだろう。

「私、蒼刃様をお慕いしているの。蒼刃様は私の運命の人です。でもお姉様が邪魔をするから……」
「私は邪魔なんてしていないわ」

 千花は慌てて否定した。

「私はただ、舞を教えていただいているだけ……あの方とは、稽古場でのやり取りしかしていないわ」
「そんなの嘘よ!」

 美琴の声が裏返った。

「汚い手を使って、蒼刃様に言い寄ったのでしょう。そうに決まっているわ!」

 美琴の邪推に、千花は困惑した。自分は何も悪いことをしていないのに、なぜこんなに責められなければならないのか。

「美琴、私は……」