千花は毎日の稽古が楽しみでしかたがなかった。これまで居場所がないように感じられていた舞の練習の時間が、蒼刃の指導によって全く違うものになったのだ。
 蒼刃は美琴や他の弟子達にも平等に指導をしていたが、千花にも基礎から一つ一つ教えてくれる。
 おかげで、千花の技術は着実に向上していた。
手の動きも足運びも、以前より格段に美しくなっている。それに気づいているのは千花自身だけではなく、他の弟子達も薄々感じ取っているようだった。
 稽古場に向かおうとしていたら、階段を下りる音が聞こえて、千花は振り返った。美琴が降りてくるのだが、その表情はいつもと違っていた。
 普段なら美しい微笑みを浮かべている美琴が、今朝は明らかに機嫌が悪そうだった。眉間に皺を寄せ、唇を固く結んでいる。

「……どうしたの?」

 千花が声をかけても、美琴は返事をしなかった。ただ鋭い視線で千花を睨みつけるだけ。
 どうしようかと困っていたら、美琴が突然千花の腕を掴んだ。

「お姉様、少しお話があるの」

 その声には、これまで聞いたことがないほど冷たい響きがあった。千花は驚いて美琴を見つめる。

「何かしら?」
「人のいないところで」

 美琴は千花を引っ張って、使われていない小部屋に連れて行った。