しかし蒼刃の答えは素っ気なかった。美琴への特別扱いを拒否する明確な意思が感じられる。
 千花は美琴の表情が曇るのを見た。
 きっと美琴は、自分の美しさと魅力があれば、どんな男性でも心を奪えると信じていたのだろう。それが通用しないことに、困惑しているようだった。

(蒼刃様は……私に何を見ておられるのかしら)

 千花が考え込んでいると、父の声が響いた。

「千花、お前はもういいだろう。明日からは稽古に出なくていい。家のことをやれ」

 いつものように、千花は使用人として扱われる。父にとって、千花が蒼刃から特別な指導を受けたことなど、どうでもいいことなのだろう。

「……でも、お父様」

 せっかく指導を受けられる機会なのだ。逃したくない。父に珍しく反抗しようとした時、蒼刃が話に割って入った。

「千花殿、明日も稽古に参加してほしい」
「ですが、蒼刃殿。あの娘には才能がなく……あのような拙い技術では」
「私は、皆に平等に指導すると言った」

 千花自身も驚いた。まさか蒼刃が、千花に加勢するなんて。

「……蒼刃殿がそうおっしゃるのでしたら」

 しぶしぶ父が同意する。
 千花が稽古場を出た後、美琴の小さな舌打ちが聞こえたような気がしたが、振り返ることはしなかった。

◇ ◇ ◇



 蒼刃が久我家に来てから三日目の朝が来た。