その日の稽古が終わると、父は蒼刃に歩み寄った。千花は道具を片付けながら、その様子を横目で見ている。

「蒼刃殿、素晴らしいご指導だった。感謝する」

 父の声には、普段千花に向けるものとは全く違う丁寧さがあった。まるで重要な客人を接待するかのような、へりくだった態度だ。

「美琴の舞も、さらに向上することでしょう。是非とも我が家との関係を深めていただけたらと思う」

 千花が、彼から指導を受けた点については触れるつもりはないらしい。父にとって大切なのは美琴だけだとわかっていても、やはり胸は痛んだ。

「私はただ、神に捧げる舞の指導をするために来ただけだ」

 彼の冷ややかな対応に、父は一瞬困惑したような表情を見せたが、すぐに愛想笑いへと切り替えた。

「もちろんだ。しかし、優秀な指導者との関係は、久我家にとっても大変ありがたいこと」

 そんな父の様子を見ていた美琴が、頬を紅潮させながら蒼刃に近づいてきた。

「蒼刃様、今度は私だけに特別な指導をお願いできませんでしょうか?」

 美琴の声は甘えたような響きを帯びていた。これまで見たことがないほど媚びるような態度で、蒼刃を見上げている。
 千花は美琴の変化に驚いた。普段の高慢な美琴からは想像もできないほど、しおらしい表情だ。きっと蒼刃の心を引こうと必死なのだろう。

「皆、平等に指導する」