蒼刃の優しい声に促されて、千花は稽古場の中央に歩み出た。足がもつれそうになりながらも、必死に歩を進める。
 周囲の視線が痛いほど感じられた。
 特に美琴の視線は、鋭く千花を刺す。
きっと美琴は、自分だけが特別だと思っていたのに、千花にも注目が向けられることが許せないのだろう。
 千花は深く息を吸い、母の教えを思い出した。
『千花、あなたは自分を信じて。あなたが舞いたいと思うように舞えばいいの』

 母の声が心の奥から聞こえてくる。そうだ、神様のためだけに舞えばいい。余計なことは考える必要はないのだ。
 千花が舞い始めた瞬間、またしても嘲笑が起こりそうになった。案の定、足運びは重く、手の動きもぎこちない。美琴のような優雅さはまるでない。
 千花は周囲の反応など気にせず、ただ一心に舞い続けた。
 技術は拙いかもしれないが、神への純粋な想いだけは誰にも負けない。その想いを込めて、精一杯舞う。
 舞が終わると、稽古場に気まずい沈黙が流れた。誰もが千花の拙い舞をどう評価していいかわからずにいるようだ。
 千花は顔を真っ赤にして俯いた。やはり期待など抱くべきではなかった。きっと蒼刃も、自分の無能さに失望しているに違いない。

「確かに技術的には未熟だ」

 蒼刃の率直な言葉に、千花の心は沈んだ。やはり技術的には未熟だ。それを見抜かれてしまった。