パン！

　乾いた音が稽古場に響く。千花（ちか）の白い頬に、赤い手形がくっきりと浮かんだ。

「これでも久我家の長女か！　恥を知れ！」
「お父様、すみません。もう一度……」

　千花の言葉を遮るように、父の手が、もう一度千花の頬を打つ。

「才能のない娘だ！　見ているだけで腹が立つ！　美琴を見ろ！　同じ血を分けた娘なのに、なぜこうも違うのだ！」

　千花は頬を押さえながら、涙をこらえて父を見つめた。しかし、父の怒りは収まらない。

「お前のような出来損ない、久我（くが）家の恥になる！　神に仕える家の娘として、少しは誇りを持て！」

　父はさらに千花を罵り続けた。千花の目に涙が浮かんだが、それでも声を上げて泣くことはしなかった。唇をぎゅっと引き結び、言葉をこらえている。
弟子達も関わり合いになりたくないと言わんばかりに視線をそらしていた。
　その時、美琴（みこと）が慌てたような様子で前に出てきた。

「お父様、どうかお怒りを鎮めてください。お姉様も一生懸命頑張っているのですから……上達が遅いのは、お姉さまのせいではないわ」

　美琴は千花の前に立ち、庇うような姿勢を取った。しかし、その横顔には歪な笑みが浮かんでいる。

「お父様、お姉様はきっと緊張なさっているのでしょう。私がお手本をお見せしますから」

　美琴の提案に、父は少し怒りを静めた。