「……生意気!」
 激高した沙代が土間に降りてきて、ばしん! と眞白の頬を張る。痛みとともに思ったのは、沙代の汚れた足袋を純白に洗いあげるのには時間がかかるな、ということだった。
「あんた、雉をシメて。宴に間に合わせるのよ!」
 使用人に命じると、彼は、はい、と返事をする。
「なんで!?」
 眞白が悲鳴に似た声を上げる。
 使用人のひとりが眞白を動けないように押さえ、もうひとりが油断しているコウヤを抱きかかえる。コウヤは嫌がって暴れ、ケーン、ケーン、と鳴いた。
「お願いです、コウヤを助けて!」
「お前のせいでめんどくせー仕事が増えたじゃねーか」
 使用人は眞白にだけ聞こえるようになじり、雉をつれていく。
「やめてください。やめて!」
 押さえられているから眞白は動けず、コウヤはバタバタと暴れるが逃げられない。
眞白の目の前で、使用人がなたをふりあげた。
「いやああああ!」
 眞白が悲痛な叫びをあげ、崩れ落ちる。
 沙代は楽し気に高笑いを響かせ、引き上げていった。

 気が付けば、眞白は寝床にしている(うまや)の馬房の横で、呆然と座り込んでいた。いつの間に戻って来たのか、覚えがない。
 村長の娘でありながら、家には部屋がない。祖父母亡きあと、「こいつと一緒の家だなんて嫌だ」と姉が言ったため、眞白が自ら厩に移動したのだ。
 それを見た両親はほっとしていた。そのことに、眞白は絶望した。