その雉をシメて。今夜の御馳走に出すのよ。
 反芻し、理解したときには全身から血の気が引いた。
「私の大事な友達なんです!」
「雉ごときになにを言ってんのよ」
 沙代はけらけらとかわいらしく笑う。
「食べるために飼ってたんでしょ? 非常食よ」
「雉はムカデを食べてくれる益鳥です!」
「高貴な方に食べていただけるのよ。これ以上の名誉はないわ」
 沙代は意地悪く笑った。
 龍の一族にとってムカデは禁忌の存在だ。だから、そこを強調したのだが、沙代の前ではすべてが無駄だった。
 眞白はコウヤを逃がそうと思うが、扉の前には使用人が陣取っていて、開けられない。
「お前がそれをシメるの。でないとお前を殺すわ」
 眞白は大きく震えた。
 命を引き合いに出されるとは思いもしなかった。
 それほど、自分の命は軽いのか。
 父も母も、いつも見て見ぬふり。銀の龍になれる姉はいつか皇族の嫁に召されるだろうと話していた。都に何度も手紙を送り、まだかまだかと焦れていた。
 だから、両親には姉だけがいればいいのだ。自分など消えてもかまわない。むしろ、命を奪われたなら、これ以上は苦しまなくてすむ。
 眞白は顔を上げた。
「コウヤのかわりに私を殺してください」
 銀の瞳に浮かぶのは悲痛ではなく諦念(ていねん)