今では身に覚えのないことも言われるようになった。子守りも水汲みも、申しでたことなど一度もない。
「大ムカデに食われればいいのに」
 三人は笑いながら立ち去り、残された眞白は、のろのろと潰れた野草を拾う。
 ただでさえ沙代の要望するものを採れなかった。その上こんな状態ではどれだけ罵倒されるだろう。
 あの人たちにバチが当たればいいのに、と思ってから、眞白はすぐに反省する。生前、祖母は言っていた。恨んだら自分に返って来るよ、人を虐める人は未熟な人間なのだから許してあげなさい、自分を貶めず清く保つために、と。
 だから、許さなくてはならないのだ。自分がどれほどつらくても。彼らに、彼らのしたことが返っていなくても。
 自分は今まで、どれだけ許してきたのだろう。これからどれだけ許さなくてはならないのだろう。
 それは果てしのない苦行のように思える。
 遠くから、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
 あの子もいつか、私を罵るようになるのだろう。
 この村にいる限り、ずっとそうなる。だけど、ここから逃げても、ほかで生きていける自信なんてない。
 もういい。それが自分の運命だ。
 あきらめとともに、眞白はかごを持って、重い足取りで家へ向かった。
「ただいま帰りました」
 台所の勝手口から入った瞬間、水を浴びせられた。
「遅い!」
 聞こえた罵声は姉の沙代のものだった。
 彼女は台所の土間に面した式台に立っており、土間にふたりの男性の使用人がいた。ひとりが桶を持っているから、彼に水をかけられたようだ。