金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「この村は龍子居の名を改め、小百足村(こむかでむら)とせよ」
「ムカデなんて!」
 辰彦が叫び、村にざわめきが広がった。
 ムカデの名を冠された。つまり、帝に逆らった逆賊が住んでいると宣言されたことになる。
「天上辰彦。お前の苗字も御大層だな。天の名を返上し、地下(ちのした)と改めよ」
 辰彦は反論しようとして、やめた。罪が重くなるのを避けたのだ。
「かしこまりました。今日より、地下と名乗ります」
 彼の答えに、虹夜は頷いた。
 虹夜が手を挙げると、青い空に何頭もの龍が現れた。
 龍たちは空を駆け下りながらその姿を馬へと変化させる。
 最後に降り立った龍は馬車へと変化し、扉がひとりでに開いた。
「では参ろうか。我が妻、銀龍の姫」
 虹夜が恭しく手を差し出し、眞白はおずおずとその手をとる。
 馬車に乗り込むと、ひとりでにドアが閉まった。
 雨刻の乗った馬が先頭に立ち、一陣は空へと舞い立つ。
「そ、空を……飛んでる」
「長距離の移動には時として天の龍を借り受けてこのように飛ぶのだ」
 虹夜は穏やかな笑みを浮かべて説明する。
「……浮かない顔だな」
「大丈夫です」
「なんだ、なんでも言ってみろ、遠慮はいらん」
 虹夜の言葉に、眞白は迷った末に口にした。