金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「証拠があるわ。見せてあげるから手を離して」
 彼女の言葉に、雨刻が頷いて護衛に合図した。
 護衛は用心深く手を離し、いつでもまた捕まえられるように身構える。
 沙代はたもとからハンカチの包みを取り出した。雨刻がそれを受け取り、虹夜に渡す。
 虹夜はすぐさま包みをほどいた。
 中にあったのは、五本爪の龍が描かれた懐中時計だった。壊れた蓋にはべっとりと血がついている。
「眞白!? そんな、まさか」
 虹夜の手がぶるぶると震え、黒い瞳に金の光が走る。
「殿下、落ち着いてくださいませ」
 雨刻が慌てて声をかけるが、虹夜の目は懐中時計に釘付けになっていた。その体からは黄金の光が漏れ始める。
「眞白——!」
 叫びとともに、虹夜は大きな黄金の龍へと変化した。その全身が燃えるような黄金の光で包まれている。
「殿下!」
 雨刻の叫びは届かなかった。
 龍となった虹夜は咆哮を上げ、地には雷が降り注いだ。

***

 森の中は歩きづらい。地面に木の根がはびこって、道など作られていないからだ。夜の森ともなれば見通しがきかず、なおさら歩きづらい。
 その中を、眞白は懸命に走っていた。