金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う

「お前、大ムカデと通じたのか」
 雨刻は厳しい目で沙代を見る。
「違う……知らない」
 真っ青になった沙代がぶるぶると首をふる。想像以上のできごとに、理解が追いついていなかった。
「捕えよ」
 雨刻の命令に、護衛が沙代を捕まえる。
「離して、なによこれ!」
「終わったか」
「申し訳ございません。お目汚しを」
 累々と横たわる死体を前に、雨刻が頭を下げる。
「良い。それより、眞白が遅い。御厨子所(みずしどころ)へ迎えに行く」
御厨子所とは、台所のことだ。
「眞白は死んだわ」
 とっさに沙代は言っていた。眞白、眞白と、彼女ばかりを気にする皇子が気に入らなくて、ちょっとした意趣返しのつもりだった。
「なんだと!?」
 気色ばむ虹夜に、沙代は笑いそうになって顔を伏せた。こんな嘘で慌てるなんて、おかしくて仕方がない。
 嘘はすぐにバレるだろう。だが、眞白なら沙代をかばうはずだ。善良と言えば聞こえがいいが、過ぎれば愚かにしか見えない。
 もっと本当っぽくしよう、と沙代は頭を巡らす。
「この男たちが眞白を殺したの。私は恐ろしくて、命令を聞いて連れて来るしかなかったのよ」
 おもねるように沙代が言うが、虹夜の耳には入っていない。
「眞白が……殺されただと?」
 気色ばむ虹夜に沙代が頷く。